スマートフォンの Wi-Fi 設定画面や、家のルーターの管理画面で、こんな数字を見たことはありませんか?
192.168.1.10203.0.113.510.0.0.1
これらはすべて IPアドレスと呼ばれるもので、インターネットに接続している機器(PC・スマホ・サーバー・プリンタ・スマート家電など)に必ず割り当てられている “住所” です。あなたが「toolcluster.app」と打つだけでこのページが表示されるのも、裏側で toolcluster.app という文字列が IPアドレスに変換され、その IPアドレスを頼りにデータがあなたのデバイスまで届けられているからです。
ところで、192.168.1.10 と 192.168.1.11 は数字としては似ていますが、同じネットワークに属していると言えるのでしょうか? それなら 192.168.2.10 は? 203.0.113.5 は? ── こうした「第何オクテットまで同じだと”同じ仲間”なのか」が直感で分かるようになると、IPアドレスを見ただけで「これは家庭 LAN のアドレスだな」「これは外部のサーバーだな」と判別できるようになります。
本記事では、初心者でも分かるように、
- IPアドレスとは何か(インターネットの「住所」の役割)
- なぜ「4 つの数字をピリオドで区切る」書式なのか
- 第何オクテットまで同じだと”同じネットワーク”なのかを階層ツリー+色分け表の 2 ビューで直感的に理解する
- プライベート IP(
192.168.x.xなど)とグローバル IP(外向きの IP)の違い - 自分の IP アドレスを調べる方法
を順を追って解説します。数式は最低限、専門知識は不要。読み終わる頃には、IPアドレスを構成要素から理解できるようになります。
前回の記事で SQL の数値型を取り上げました(SQLの数値型を正しく選ぶ技術)。IPアドレスも「数字でデータを表現する」典型例で、内部的には 32 ビットの整数として扱われます。本記事の内容はそれと地続きです。
1. IPアドレスとは何か ― インターネット上の”郵便番号付き住所”
1-1. ネットワークにおける「住所」の役割
郵便で手紙を届けるとき、宛先には住所が必要です。「東京都〇〇区△△町 1-2-3」のような住所がなければ、配達員はあなたの家を見つけられません。
インターネットの世界もこれとまったく同じ仕組みになっています。動画を視聴するときも、メールを送るときも、Web ページを開くときも、データは パケットと呼ばれる小さな情報のかたまりに分割され、世界中のコンピュータ間を旅していきます。そのパケットには必ず「送り先の住所」と「送り元の住所」が書かれていて、その住所こそが IPアドレス です。
つまり IPアドレスは、
- インターネットに接続しているすべての機器に割り当てられる識別番号
- パケット(データ)を「どこからどこへ送るか」を指定するための住所
の 2 つの役割を担っています。住所がなければ郵便が届かないのと同じで、IPアドレスがなければインターネット上のデータも届きません。
1-2. なぜ 4 つの数字なのか ― IPv4 の 32 ビット構造
IPアドレスの代表例として 192.168.1.10 のような書式があります。この 「ピリオドで区切られた 4 つの数字」 こそが、現在最も広く使われている IPv4(アイピー・ブイ・フォー) という規格のアドレス形式です。
なぜ 4 つに区切るのでしょうか? 答えはとてもシンプルで、IPv4 では アドレス全体を 32 ビット(= 32 個の 0/1) で表現すると決められているからです。32 ビットを 8 ビットずつ 4 つに分けた のが、192.168.1.10 の 4 つの数字の正体です。
2 進数で書くと: 11000000 . 10101000 . 00000001 . 00001010
10 進数に直すと: 192 . 168 . 1 . 10
└─第1─┘ └─第2─┘ └─第3─┘ └─第4─┘
オクテット オクテット オクテット オクテット
この 8 ビットのカタマリ 1 つ 1 つを オクテット (octet) と呼びます。octet はラテン語起源で「8 個の組」を意味する言葉で、コンピュータ通信の世界で「8 ビット = 1 オクテット」と定義されています(ほぼ「バイト」と同じ意味)。
1-3. なぜ各オクテットは 0〜255 なのか
IPアドレスの各オクテットは「0 〜 255」の範囲しか取りません。192.168.1.300 のようなアドレスは存在しないのです。これは 8 ビットで表現できる値の範囲が決まっているためです。
8 ビットで表せるパターンは 2^8 = 256 通り。0 から数え始めると 0 〜 255 の 256 個の値になります。だから IPアドレスの各オクテットは 0 〜 255 の範囲なのです。
これを踏まえると、IPv4 アドレス全体で表現できる組み合わせは、
256 × 256 × 256 × 256 ≒ 約 43 億通り
という計算になります。一見たくさんあるように思えますが、後の §7 で触れるとおり、現代のインターネットではこの 43 億ですら足りなくなり、IPv6 という新規格が登場するきっかけになりました。
bit と byte の関係をひとことで言うと、「1 byte = 8 bit」です。bit は 0 か 1 かの最小単位、byte はその 8 個セットを 1 つの単位として扱う通信・記憶容量の単位です。「1 オクテット = 1 バイト = 8 ビット」と覚えてしまえば、本記事ではもう困りません。
2. オクテット ― IPアドレスを構成する 4 つのカタマリ
§1 で「IPv4 アドレスは 32 ビットを 8 ビットずつ 4 つに区切ったもの」だと触れました。この章では、それぞれの「カタマリ」がどう呼ばれ、どう並んでいるのかをもう一段詳しく見ていきます。ここを押さえると、次章のメイン図解がぐっと読みやすくなります。
2-1. 第1〜第4オクテットの呼び方
192.168.1.10 を例にとると、左から順に 第 1 オクテット、第 2 オクテット、第 3 オクテット、第 4 オクテット と呼びます。
| 位置 | 呼び方 | この例での値 |
|---|---|---|
| 左端 | 第 1 オクテット | 192 |
| 左から 2 つ目 | 第 2 オクテット | 168 |
| 右から 2 つ目 | 第 3 オクテット | 1 |
| 右端 | 第 4 オクテット | 10 |
英語では first octet 〜 fourth octet と呼ばれます。技術ドキュメントでは「第 1 バイト」「第 1 セグメント」と書かれることもありますが、いずれも同じものを指していると考えて構いません。
2-2. 左が大きいグループ、右が個別 ─ 住所の階層と同じ並び
オクテットの並び順には大事な意味があります。左にいくほど大きなグループを表し、右にいくほど個別の機器を指す という方向性です。
これは郵便の住所と同じ感覚で考えると分かりやすいです。
住所: 東京都 千代田区 永田町 1-2-3
└─大─┘ └────┘ └──┘ └個別┘
国・都道府県 市区町村 番地
IPアドレス: 192 168 1 10
└────────────────────┘ └個別┘
ネットワーク部 ホスト部
住所では「東京都」が同じなら少なくとも同じ都道府県に住んでいて、「千代田区」まで同じならもっと近い、「永田町」まで同じならご近所さん──という感覚があります。IPアドレスでも、左から見て 何オクテットまで一致するか で「ネットワーク的にどれくらい近いか」が決まります。
ただし、この「住所アナロジー」は厳密には正確ではありません。実際の IPアドレスでは、どこまでがネットワーク部でどこからがホスト部かは アドレスごとに自由に決められる(CIDR 記法、§4 で解説)からです。ここでは「左ほど大きなグループ・右ほど個別」という方向感覚さえ掴んでおけば十分です。
「ネットワーク部」「ホスト部」という言葉は §4 で本格的に登場します。今の段階では「左が共通している部分=同じ仲間」「右が違う部分=個々の機器」というイメージで OK です。
3. 【メイン図解】どこまで同じだと”同じネットワーク”なのか
ここが本記事の核心です。192.168.1.10 と 192.168.1.11 のように 上位のオクテットが共通している IP アドレス同士 は、ネットワーク的には「同じグループ」に属しています。逆に 192.168.1.10 と 203.0.113.5 のように上位オクテットがまったく違うアドレス同士は、まったく別のネットワークにいます。
このグループ構造を、階層ツリー と 色分け表 の 2 つのビューで見ていきます。お好みのビューに切り替えてご覧ください。ツリービューには「色を付ける/外す」のトグルボタンも付いているので、文字の整列だけで理解したい方も、色のヒントが欲しい方も、どちらでも快適に読めるようになっています。
3-1. 階層ツリーと色分け表で見る「グループの深さ」
この図では、同じ家庭 LAN にいる 3 台、別フロアの PC、そして完全に別の ISP にある PC を並べています。階層ツリーでは「ネットワークの中にネットワークがある」という入れ子構造が、色分け表では「上位オクテットが何個一致しているか」が一目で分かります。
192.0.0.0/8 ← /8 ネットワーク(最も広い括り) └── 192.168.0.0/16 ← /16 ネットワーク ├── 192.168.1.0/24 ← /24 ネットワーク(家庭 LAN で最も一般的) │ ├── 192.168.1.10 PC-A(自宅) │ ├── 192.168.1.11 PC-B(自宅) │ └── 192.168.1.50 プリンタ(自宅) └── 192.168.2.0/24 ← 別の /24(同じ /16 だが /24 では別グループ) └── 192.168.2.10 別フロアの PC 203.0.0.0/8 ← 完全に別ツリー(別 ISP) └── 203.0.113.0/24 └── 203.0.113.5 友人宅の Web サーバー
| ホスト | 第1 | 第2 | 第3 | 第4 | 同じネットワーク? |
|---|---|---|---|---|---|
| 自宅 PC-A | 192 | 168 | 1 | 10 | ──(基準) |
| 自宅 PC-B | 192 | 168 | 1 | 11 | PC-A と同じ /24 |
| 自宅プリンタ | 192 | 168 | 1 | 50 | PC-A と同じ /24 |
| 別フロアの PC | 192 | 168 | 2 | 10 | /24 では別、/16 では同じ |
| 友人宅の PC | 192 | 0 | 0 | 5 | /8 では同じ、それ以下は別 |
| 別 ISP の PC | 203 | 0 | 113 | 5 | 完全に別ネットワーク |
3-2. 第何オクテットまで同じなら「同じネットワーク」か
上の図解から、次のような関係が読み取れます。
- 第 1 オクテットだけ同じ(例: 192.x.x.x 同士):とても大雑把な括り(/8)。同じインターネット上のはるか遠い相手かもしれません。
- 第 1〜2 オクテットが同じ(例: 192.168.x.x 同士):もう少し近い括り(/16)。
- 第 1〜3 オクテットが同じ(例: 192.168.1.x 同士):家庭 LAN や小規模オフィスで最もよく使われるネットワーク単位(/24)。家の中の機器同士はだいたいこの単位で同じネットワークに収まります。
- 4 つ全部同じ:完全に同一のホスト(同じ機器)。
つまり、192.168.1.10 と 192.168.1.11 は、第 3 オクテット(1)まで一致している ので、家庭 LAN 単位(/24)で見ると同じネットワークに所属しています。一方、192.168.2.10 は第 2 オクテット(168)までしか一致していないので、/24 で見ると別のネットワーク、/16 まで広げるとようやく同じネットワークになります。
3-3. 同じネットワークにいるとできること
「同じネットワークに所属する」というのは、単にアドレスが似ているという話ではありません。実用上、次のような違いが生まれます。
- 同じネットワーク内の通信は速い:パケットがルーターを経由せず、直接相手に届くため、応答時間が短くなります。
- プリンタや NAS の共有ができる:
192.168.1.x同士なら、家庭内のプリンタや NAS(ファイルサーバー)にすぐアクセスできるのは、同じネットワークだからです。 - 別ネットワークの相手にはルーターが必須:違うネットワークにいる相手と通信するときは、必ずルーターを経由してパケットが転送されます。
第 1 オクテットだけ同じ(192.x.x.x)でも、それは “近所” を意味しません。192.168.1.10 と 192.0.2.5 は第 1 オクテットが同じですが、ネットワーク的にはまったく別の場所にあります。”近さ” を判断するときは、必ず 左から何オクテット連続して一致しているか を見るようにしましょう。
4. ネットワーク部とホスト部 ─ IPアドレスは 2 つの部分でできている
§3 で「上位オクテットが共通=同じネットワーク」という感覚を掴みました。実は IPアドレスは、その仕組みをもっとはっきりと 「ネットワーク部」と「ホスト部」の 2 つに分けて 考えるように設計されています。
4-1. ネットワーク部(前半)とホスト部(後半)
IPアドレスを以下のように分けてみましょう。
同じ 192.168.1.10 でも、後述する「CIDR(サイダー)」という仕組みによって境目(│)の位置が動きます: /8 の場合: 192 │ 168.1.10 ネットワーク部 = 第 1 オクテットのみ /16 の場合: 192.168 │ 1.10 ネットワーク部 = 上位 2 オクテット /24 の場合: 192.168.1 │ 10 ネットワーク部 = 上位 3 オクテット(家庭 LAN の定番) /32 の場合: 192.168.1.10 │ 全 32 ビットがネットワーク部 = 単一ホスト指定 左側 = ネットワーク部(共通の住所) / 右側 = ホスト部(個別の番号)
- ネットワーク部:そのアドレスがどのネットワークに属しているかを示す部分。同じネットワークにいる機器は全員これが共通。
- ホスト部:ネットワークの中で、特定の 1 台の機器(ホスト)を指す部分。同じネットワーク内で重複してはいけない。
家のマンションに例えるなら、「マンションの住所+号室番号」のうち、マンションの住所がネットワーク部、号室番号がホスト部 に相当します。同じマンションに住む人は皆「マンションの住所」が同じで、「号室番号」だけが違いますね。これと同じことを IP アドレスでもやっています。
4-2. CIDR 記法 /24 の意味 ─「上位 N ビットがネットワーク部」
「では、ネットワーク部とホスト部の境目はどこにあるのか?」これを明示するために使われるのが、CIDR(サイダー)記法 です。
CIDR 記法では、IPアドレスの後ろに /24 のようにスラッシュと数字をつけて、「上位 N ビットまでがネットワーク部です」 と宣言します。
192.168.1.10/24
└─ 上位 24 ビット(= 上位 3 オクテット)がネットワーク部
残りの 8 ビット(= 第 4 オクテット)がホスト部
CIDR の数字は ネットワーク部のビット数 を表しています。/24 なら 24 ビットなので、24 ÷ 8 = 3 オクテットがネットワーク部、ということになります。家庭の Wi-Fi ルーターはほとんどがこの /24 設定で動作しているので、「/24 = 家庭 LAN サイズ」と覚えてしまっても実用上はほぼ困りません。
4-3. /8・/16・/24・/32 と「同じオクテット数」の対応表
| CIDR | ネットワーク部 | 共通オクテット数 | ホスト数 | 例 | よくある用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| /8 | 8 ビット | 第 1 のみ | 約 1,677 万 | 10.0.0.0/8 | 大企業・ISP の大規模ネットワーク |
| /16 | 16 ビット | 第 1〜2 | 65,536 | 172.16.0.0/16 | 中規模オフィス全体 |
| /24 | 24 ビット | 第 1〜3 | 256 | 192.168.1.0/24 | 家庭 LAN・小規模オフィスの定番 |
| /32 | 32 ビット | 全 4 つ | 1(単一ホスト) | 192.168.1.10/32 | 特定の 1 台だけを指したい場合 |
ホスト数が「ネットワーク部のビット数」と逆相関しているのが見えますか? ネットワーク部が大きいほど、その分ホスト部に使えるビットが減るので、入れられるホストの数は少なくなります。/24 のホスト数 256 個というのは、家庭 LAN として「家中の PC・スマホ・スマート家電を全部つないでも余裕」という絶妙なサイズで、これが家庭ルーターのデフォルトになっている理由でもあります。
厳密には、/24 の 256 個のうち先頭(.0)と末尾(.255)は特別な用途(ネットワークアドレス・ブロードキャストアドレス)に予約されているので、実際にホストに割り当てられるのは 254 個 です。家庭の用途では十分すぎる数なので、まずは「だいたい 256 個」で覚えておけば問題ありません。
4-4. 補足コラム:/20 のような途中区切りもある
ここまで /8・/16・/24・/32 という「8 の倍数」だけ紹介してきました。これらはオクテットの境目とちょうど一致するので分かりやすいのですが、実は CIDR は 8 の倍数以外でも自由に区切れます。
たとえば /20 は「上位 20 ビットがネットワーク部」という意味で、第 3 オクテットの 先頭 4 ビットだけ がネットワーク部、残りの 4 ビットがホスト部に組み込まれる、という変則的な区切り方になります。これにより、/16(65,536 ホスト)と /24(256 ホスト)の中間として /20(4,096 ホスト)といった柔軟なサイズ設計ができるのです。
初心者のうちは「家庭 LAN は /24、それ以外は出てきたら都度調べる」くらいの心構えで十分です。途中区切りの仕組みは、ネットワーク管理の仕事に就いてから本格的に勉強すれば間に合います。
5. プライベート IP と グローバル(パブリック)IP
ここまでの説明で、ある疑問が浮かんだ方もいるかもしれません。「自分の家のスマホは 192.168.1.10、でも友達の家のスマホも 192.168.1.10 かもしれない。世界で一意のはずなのに、それで大丈夫なの?」── 鋭い疑問です。この章で解決します。
5-1. 家の Wi-Fi で見る 192.168.x.x の正体 ─ これは「プライベート IP」
実は、192.168.x.x のような家庭 LAN で使われているアドレスは プライベート IP と呼ばれる特別なアドレスで、家の中だけで通用するローカルなアドレス なのです。郵便で例えるなら「マンション内の部屋番号」のようなもので、マンションの中では一意でも、外の郵便局からは「永田町マンションの 301 号室」という形でマンション住所と組み合わさって初めて宛先になります。
これに対して、世界中で重複しない「インターネット上の本物の住所」は グローバル IP(またはパブリック IP) と呼ばれます。あなたが Web サイトを見るとき、相手のサーバーは必ずグローバル IP を持っています。
5-2. プライベート IP の 3 つの予約レンジ
「家の中だけで使ってよい」プライベート IP として、世界共通で 3 つのレンジが予約されています。
| レンジ | CIDR | 想定用途 |
|---|---|---|
10.0.0.0 〜 10.255.255.255 | 10.0.0.0/8 | 大企業の社内ネットワーク向け(広大) |
172.16.0.0 〜 172.31.255.255 | 172.16.0.0/12 | 中規模ネットワーク向け |
192.168.0.0 〜 192.168.255.255 | 192.168.0.0/16 | 家庭・小規模オフィス向け(最もよく目にする) |
家庭のルーターは通常 192.168.0.0/16 の中から、さらに /24 を切り出して使います。あなたの家のスマホが 192.168.1.10、隣の家のスマホが 192.168.1.10、というのはこのプライベートレンジ内で それぞれの家の中だけで一意 に割り振られているだけなので、まったく問題ないのです。
5-3. ルーターと NAT ─ プライベートとグローバルを橋渡しする仕組み
では、家の中のプライベート IP しか持っていないスマホが、なぜインターネットの外(グローバルな世界)の Web サイトを見られるのでしょうか? その鍵を握っているのが ルーター と、ルーターが裏で行っている NAT(Network Address Translation:ネットワークアドレス変換) という仕組みです。
[家の中] [インターネット]
スマホ 192.168.1.10 ──┐
PC 192.168.1.11 ──┼─→ ルーター ──→ ISP から借りた
プリンタ 192.168.1.50 ──┘ (NAT 変換) グローバル IP(例: 203.0.113.5)
│
↓
Web サーバー(例: 92.205.10.50)
ルーターは、家の中の機器がインターネットに出ていくときに 「送り元のプライベート IP」を「自分のグローバル IP」に書き換えて 外に送り出します。返信が返ってきたら、今度は逆に「家の中のどの機器宛だったか」を覚えておいた表を見て、適切なプライベート IP に書き換えてその機器に届けます。
この仕組みによって、家の中の何台もの機器が たった 1 つのグローバル IP を共有して インターネットを使えるようになっているのです。NAT は本来「IPv4 アドレス枯渇問題」の応急処置として広まった技術ですが、結果的に「家の中の機器を外から直接見えなくする」プライバシー上のメリットも生み出しています。
家庭ルーターの管理画面(多くは http://192.168.1.1/ など)を開くと、「LAN 側 IP(プライベート)」と「WAN 側 IP(グローバル)」という 2 つの IP が表示されているはずです。これがまさに今説明した 2 種類の IP の正体です。
6. 自分の IP アドレスを調べる方法
理屈が分かったところで、実際に自分の IP アドレスを確認してみましょう。プライベート IP とグローバル IP の 両方 を見ることで、これまでの内容が腑に落ちるはずです。
6-1. グローバル IP の調べ方
最も簡単なのは、ブラウザで「自分のIP」「my ip」のように検索することです。Google などの検索結果のいちばん上に、あなたが今インターネットに出るときに使っているグローバル IP(=ルーターが ISP からもらっているアドレス)が表示されます。
コマンドで確認したい場合は、ターミナルから次のコマンドを実行できます。
# Mac / Linux
curl ifconfig.me
# Windows (PowerShell)
Invoke-RestMethod ifconfig.me
実行すると 203.0.113.5 のようなアドレスが 1 行返ってきます。これがあなたの家のルーターのグローバル IP です。家族の誰かが別のスマホで同じコマンドを試しても、同じ結果が返ってきます。なぜなら、家の機器は全員同じグローバル IP を共有してインターネットに出ているからです(§5 の NAT で説明したとおり)。
6-2. プライベート IP の調べ方
家の LAN の中で割り当てられている プライベート IP は、OS ごとにコマンドが違います。
# Windows (コマンドプロンプト or PowerShell)
ipconfig
# Mac / Linux (新しいコマンド)
ip addr show
# Mac / Linux (古いコマンド、今も動く)
ifconfig
出力には複数のネットワークインターフェースが表示されます。Wi-Fi で接続していれば「Wi-Fi」「en0」「wlan0」のような項目に、有線 LAN なら「Ethernet」「eth0」のような項目に、192.168.x.x のようなプライベート IP が記載されているはずです。
実際に手元で試して、192.168.1.10 のような数字が見えたら、ここまでの記事の内容がすべて自分の家の中で起きていることだと実感できるはずです。家族のスマホで同じコマンドを試せば、おそらく 同じ第 1〜3 オクテット(例: 192.168.1.x)に、最後のオクテットだけが違う(例: .11 や .12)アドレスが出てくるはずです。それがまさに「同じ /24 ネットワークに所属している」状態です。
7. IPv4 と IPv6 ─ なぜ新しいバージョンが必要だったのか
ここまでずっと「IPv4」のアドレスを解説してきましたが、世の中には IPv6 という新しい規格もあります。なぜ新規格が必要になったのか、IPv4 とどう違うのかを軽く押さえておきましょう。
7-1. IPv4 アドレス枯渇問題 ─ 約 43 億個では足りなかった
§1 で触れたとおり、IPv4 アドレスは 32 ビット、つまり全部で 約 43 億通り しかありません。1980 年代には「これで人類が困ることはないだろう」と思われていましたが、その後のインターネットの爆発的な普及、そして PC・スマホ・スマート家電・IoT デバイスなど 1 人あたり何台もの機器 がインターネットに繋がる時代が来たことで、43 億ではまったく足りなくなりました。
IPv4 アドレスの新規割り当ては、世界の地域ごとに 2010 年代を通じて順次枯渇していき、現在では基本的に新しい IPv4 アドレスを「もらう」ことはできません。これに対する応急処置として広まったのが、§5 で触れた NAT とプライベート IP です。家庭で何台繋いでもグローバル IP は 1 個で済む仕組みは、本来こうした事情で生まれたものでした。
しかし、応急処置だけではいつまで経っても根本解決にならないので、根本的に アドレス空間そのものを桁違いに広げた新規格 として登場したのが IPv6 です。
7-2. IPv6 の見た目とグループ構造
IPv6 のアドレスは 128 ビット(IPv4 の 4 倍)あり、書式もガラリと変わります。
IPv4: 192.168.1.10
└─ 32 bit、4 つの 10 進数、ピリオド区切り
IPv6: 2001:0db8:85a3:0000:0000:8a2e:0370:7334
└─ 128 bit、8 つの 16 進数、コロン区切り
IPv6 アドレスは 「16 進数 4 桁を 8 グループ並べる」 書式で、グループ間はピリオドではなく コロン(:) で区切ります。各グループは 16 ビットなので、IPv4 のオクテット(8 ビット)が 4 つだったのに対し、IPv6 ではグループが 8 つに増えています。
128 ビットで表現できるアドレス数は、約 340 澗(かん、340 兆 × 1 兆 × 1 兆)通り。これは「地球の表面 1 平方ミリメートルあたり 600 兆個割り当てても余る」というレベルの天文学的な数で、当面足りなくなる心配はありません。
7-3. IPv6 でも「グループ構造」の発想は同じ
書式は変わっても、「上位ビットが共通=同じネットワーク」 という考え方は IPv6 でも全く同じです。
2001:0db8:85a3::/48 ← /48 が IPv6 における家庭・小規模ネットワークの典型サイズ
└── 2001:0db8:85a3:0001::/64
├── 2001:0db8:85a3:0001::1 PC-A
└── 2001:0db8:85a3:0001::2 PC-B
IPv6 では家庭ネットワークが /64(つまり上位 64 ビットが共通)、ISP が顧客に割り当てる単位が /48 程度、という慣習が広まっています。「左から共通している部分が多いほど近いネットワーク」という §3 で身につけた感覚は、そのまま IPv6 でも通用します。
7-4. 当面 IPv4 と IPv6 は併存する
「では IPv4 はもう廃止されるの?」という疑問が湧きそうですが、答えは “当面ノー” です。世の中の大多数の機器・サーバー・ルーターは依然として IPv4 を主に使っており、急に切り替えることは現実的ではありません。
現在の主流は IPv4 と IPv6 を両方話せる「デュアルスタック」運用 で、機器ごとに両方の IP を持って状況に応じて使い分けています。あなたのスマホも、おそらく自宅の Wi-Fi では IPv4 のプライベート IP(192.168.1.x)と、IPv6 のグローバル IP の両方を割り当てられているはずです。
§6 で紹介した ip addr show コマンドでよく見ると、inet 192.168.1.10/24 のような IPv4 行と、inet6 2001:db8::1/64 のような IPv6 行が両方出ているはずです。これがデュアルスタックの実体です。
8. よくある質問・誤解
最後に、IP アドレスにまつわる「初心者がよく引っかかるポイント」を 4 つだけ整理しておきます。
8-1. 自分の IP は固定? それとも変わる?
家庭環境では、ほとんどの場合 動的(変わる) です。
- プライベート IP(家の中):ルーターが DHCP(自動 IP 配布)でその場で割り当てるので、再起動すると変わることがあります。ただし、家庭内の機器数が少なければ実質的にはほぼ同じ IP が割り振られ続けます。
- グローバル IP(外向き):ISP の方針により、定期的に変わるのが一般的です。日本の家庭向け回線では数日〜数週間で変わることが多いです。法人契約や「固定 IP オプション」を契約すると、変わらないグローバル IP がもらえます。
8-2. IP アドレスで個人を特定できる?
結論から言うと、ピンポイントでの個人特定はほぼ不可能ですが、ある程度の地域・ISP までは特定可能 です。
グローバル IP からは「この IP は OCN の東京エリアの利用者」程度の情報が分かりますが、「○○市××区の山田さん」を特定するには ISP に対する正式な開示請求(裁判所命令など)が必要で、一般の人ができることではありません。一方、Web サイトの運営者は閲覧者の IP を取得できるので、「おおよその地域や ISP はサイト側に見えている」と思っておくと安全です。
8-3. 同じ IP でも違うサービスが動いているのはなぜ? ─ ポート番号の話
https://toolcluster.app/ は IP アドレス + ポート番号 という 2 つの数字でサービスを特定しています。
- IP アドレスがマンションの住所だとすると
- ポート番号は、そのマンション内の “部屋番号”
1 台のサーバー(1 つの IP)の中で、Web サイト(ポート 443)、メール(ポート 25)、SSH(ポート 22)など、異なる番号の “部屋” で異なるサービスが動いています。だから同じサーバー IP でも複数のサービスを同時に提供できるのです。本記事の本筋からは外れるので、ポート番号の詳細は別の機会に。
8-4. 「IP クラス(Class A/B/C)」って聞いたことがあるけど?
昔の IPv4 では、第 1 オクテットの値でアドレスを Class A(/8)、Class B(/16)、Class C(/24)と機械的に分類する仕組みがありました。しかし 1993 年に CIDR(§4 で紹介した記法)が導入されてからは、この古いクラス分けは事実上使われていません。今の世界では「クラスフル(class-full)」と呼ばれる古い概念で、新しく勉強する必要はほぼありません。古いドキュメントで見かけたら「ああ、CIDR 以前の古い話ね」と読み流して大丈夫です。
まとめ ─ IPアドレスの 4 行エッセンス
長い記事でしたが、本記事のエッセンスを 4 行に圧縮するとこうなります。
- IPv4 アドレスは 32 ビットを 8 ビット × 4 オクテットで区切った “インターネット上の住所”
- 左ほど大きなグループ、右ほど個別のホスト ─ 上位 N オクテットが共通なら同じネットワーク
- CIDR
/24は “上位 24 ビット = 3 オクテットがネットワーク部” を意味し、家庭 LAN の定番 - 家の中ではプライベート IP、外向きはグローバル IP ─ ルーターが NAT で橋渡しする
これらを押さえておけば、ルーターの管理画面、ネットワーク設定画面、サーバーのログを見たときに、もう「謎の数字の羅列」ではなくなっているはずです。
ネットワーキングの世界はここからさらに DNS(名前と IP の対応)、ポート、ファイアウォール、VPN、ルーティング など深く広がっていきますが、IPアドレスの仕組みはそのすべての土台になります。本記事で得た「グループ構造」の感覚は、これからの学習でも何度も役に立つはずです。
データの内部表現という観点では、本サイトのSQLの数値型を正しく選ぶ技術も合わせてどうぞ。整数を「何ビットで持つか」というテーマは IPアドレスと地続きです。
FAQ
Q1. 自分の IP アドレスを変える方法はありますか?
A. グローバル IP は、家庭ルーターを 5〜10 分以上電源オフにしてから再起動 すると変わることが多いです(ISP の DHCP リース期間が切れて再取得されるため)。プライベート IP は、ルーターの DHCP 設定から特定の機器を「予約」または「除外」することで変えられます。VPN を使えば、見かけ上のグローバル IP を VPN プロバイダのものに置き換えることも可能です。
Q2. IPv6 はもう日常的に使えますか?
A. 大手 ISP(OCN、ドコモ光、au ひかりなど)の多くで IPv6 が標準提供されており、対応するルーターを使っていれば自動的に IPv6 通信になります。Google・YouTube・Facebook など主要サービスは IPv6 対応済みなので、利用者が意識しないまま IPv6 通信をしているケースが多数です。ip addr show で inet6 の行があれば、すでに IPv6 を使えています。
Q3. 同じネットワーク内の機器を一覧で見るには?
A. ルーターの管理画面(多くは http://192.168.1.1/ または http://192.168.0.1/)にログインすると、「接続中のデバイス一覧」「DHCP クライアント一覧」のような項目で、家のネットワークに繋がっている全機器の IPアドレスと MAC アドレスが確認できます。コマンドラインなら arp -a でも近いことができます。
Q4. IPv4 アドレスは何バイトですか?
A. 4 バイト(= 32 ビット) です。1 オクテット = 1 バイトなので、4 つのオクテットで合計 4 バイトです。データベースに IPアドレスを格納する場合、文字列として VARCHAR(15) で持つこともできますが、空間効率を重視するなら 32 ビット整数(INT UNSIGNED)として持つのが一般的です。この発想は本サイトのSQLの数値型を正しく選ぶ技術とも繋がっています。
Q5. VPN を使うと自分の IP はどうなりますか?
A. VPN(Virtual Private Network)を使うと、あなたの通信は VPN サーバーを経由してインターネットに出ていく ため、相手から見たあなたの送信元 IP は VPN サーバーのグローバル IP になります。日本にいながら米国の VPN サーバーに繋げば、米国の Web サイトからは「米国からのアクセス」に見えます。家のグローバル IP を一時的に隠したいときの定番テクニックですが、VPN プロバイダ自体には通信内容が見える可能性があるので、信頼できるサービスを選ぶ必要があります。

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