機械の部品は、時に我々の直感通りには動かないことがあります。たとえば、引張したベルトは温めると柔らかくなるどころか縮んで更に締まり、物質として均一の格子が並んでいるものは、引っ張ると外径が太くなることがあります。そして、空気を入れたチューブは横に引き伸ばされる過程で短くなり、ボルトは先に強く締めておくことで、締結そのものに寄与するだけではなく、変動荷重を接合面に逃がすこともあるのです。
このように直感が外れるのは、分子の取り得る配置、セルの幾何、予圧を設計変数にできるといったことが重要になります。ここでは、直感が外れる理由を、動く図を使って理解していきましょう。
この記事の要点
| 章 | この節で解説すること |
|---|---|
| 引張ベルトの熱収縮 | 温めると伸びる、ではない。引張したゴムは、熱で縮む側へ動く |
| 開く格子の横方向の広がり | 引っ張ると細くなる、ではない。セルが開くと横にも広がる |
| エア筋の収縮 | 膨らませると長くなる、ではない。編組が太さを長さに返す |
| ボルト予圧と変動荷重 | 先に締めるのは無駄、ではない。接合面が周期荷重を先に飲む |
引張ベルトの熱収縮
温めると縮むのは、引張したゴムという材料の仕事(自然な動き)です。現場の部品では、タイミングベルトやゴムカップリングで見ることができます。では、すでに引張した状態のゴムを温める場面を考えましょう。直感では、固体は熱で柔らかくなり、長さが増えます。しかし、引張した高分子では、熱で鎖が取り得る配置が増えるほど、元の長さへ戻す力が強まります。(すでに引っ張られて真っすぐに近い鎖は、熱で折れ方の多い側へ戻ろうとして、端と端の距離が縮みます。)そのため、一定の荷重では縮み、一定の長さでは張力が増えます。この応答を、ゴフ=ジュール効果と言います。
ここでは、サーボに載るゴムカップリングを例として扱います。そして、サーボの一周において、カップリングをばねとして扱います。そのばね定数は、室温のカタログ値のままではありません。熱が上がると、引張したゴム側は締まる方向へ動きます。一方で、金属のプーリと軸は膨張します。ですから、緩みを熱で稼ごうとすると、冷えた後に張力が足りず、熱い間は切れやすくなります。なお、結晶が熱で体積を減らす別の材料もありますが、この章では引張した高分子の仕事に限ります。
下の図は、左右のプーリの間に引張したベルトを置いたものです。熱が上がると、鎖の折れ方が増えて全長が縮み、張力の表示が上がります。
張力を足す前に、運転温度での長さを見ます。室温でちょうど良い張力は、熱が乗った後では強すぎることがあります。カップリングのたわみは、サーボ一周の遅れの機械側と同じばねです。
温めたら伸びる、と見て室温で張力を足し込むことです。引張したゴムは、熱で締まる側へ動きます。金属側の膨張と打ち消し合うこともあれば、片側だけが勝つこともあります。
開く格子の横方向の広がり
棒を長手に引っ張ると、横は細くなるというのが均質な固体の直感です。しかし、内側が凹んだセルを並べた格子では、引張でセルが開きます。その結果、引張した方向にも、横方向にも広がります。この応答を負のポアソン比と言い、そのような構造をオーセティック構造と言います。材料そのものが魔法なのではなく、セルの形が力の向きを返しています。
現場では、グリッパのパッドや、衝撃を面に広げるインサートで見ることができます。これは、CAD のロフトや曲げの手順とは別の話です。格子を部品として置くと、把持の時に横へ逃げずに、面が相手へ寄ります。巻いたワイヤの保持が巻き角で指数的に増えるのも、摩擦と幾何を設計変数にした例ですが、ここではセルが開く仕事に限ります。
下の図は、回転する正方形を並べた格子です。左右から引張がかかると、正方形が開き、外枠は縦にも横にも広がります。
カタログの「柔らかいゴム」と、格子の広がりは別です。前者は均質な固体のポアソン比に近い話で、後者はセルが開く幾何の話です。パッドを選ぶ時は、断面の写真を先に見ます。
フォーム全体が、どの向きに引っ張っても太くなる材料だと思い込むことです。効くのはセルの形と、引張の向きです。向きを間違えると、ただの穴あきゴムに戻ります。
エア筋の収縮
ゴムの筒に空気を入れると、風船のように長くなる、というのが直感です。しかし、外側に編組スリーブを巻いたアクチュエータでは、内筒が太くなると編組の角度が変わります。その結果、全長が短くなり、両端を引っ張ります。つまり、膨らませて縮める機械です。この形をマクキベン型の人工筋肉、現場ではエア筋と言います。
ロボットの関節は、多くが回転です。逆運動学の図も、リンクの角度を解きます。一方、エア筋は、長さが変わるアクチュエータです。バルブの開閉は PLC の出力で打てます。ただし、軌道をセルの PLC が毎周期振る話ではありません。長さの指令とアームの角度の指令は、役割が違います。
下の図は、内圧が上がると直径が増え、編組が角度を変え、両端が近づくところです。
ストロークは編組の角度で頭打ちになります。内圧を足しても、ある太さから先は長さがほとんど減りません。把持やクランプのように、短い引きで力が要る仕事向きです。長い直線の位置決めは、ボールねじ側です。
モータの代わりに置けば、同じ軌道が出せると考えることです。エア筋は長さが変わるばねに近いです。位置の一周をエンコーダで閉じる仕事は、残ります。
ボルト予圧と変動荷重
外力がこれからかかるボルトを、最初から強く引っ張っておくのは無駄、というのが直感です。しかし、締めたボルトの軸はわずかに伸び、接合面はわずかに縮みます。つまり、締結は、その二つのばねを先にたわませた状態です。適切な予圧のある締結では、外部の引張の多くが、接合面の圧縮を減らす側に使われます。ボルトの引張応力の変動幅は、予圧が無い時に比べて小さくできます。疲労に効くのは、平均ではなく、この振れです。なお、位置決めのテーブルを止めるねじも、この軸のばねです。一周の遅れはサーボの記事にあります。
先に軸力を入れておくと、周期の荷重は面の接触が先に受け止めます。表面を無数に叩いて残留圧縮を残すショットピーニングも、先に圧縮を入れて引張の振幅を抑える仕事です。高圧の筒を一度降伏させて内側に圧縮を残す自緊法は、同じ思想の別の話なので、ここでは追いません。
下の図は、予圧の後、外力が入るところです。接合面の圧縮が先に減り、ボルトの張力はほとんど増えません。図では、力の向きが見えるように矢印と軸の伸びを動かしています。ただし、実際の締結はすでに締まっており、部品がガタつく構造の話ではありません。
予圧は「壊れない上限まで回す」ではありません。接合面が開かない範囲と、ボルトが降伏しない範囲の間に置きます。面が開いた瞬間から、変動はボルトが全部引きます。
トルクレンチの数字だけを見て、軸力が足りたとすることです。摩擦がばらつくと、同じトルクでも軸力は変わります。重要なフランジでは、伸びや超音波で軸力を見ます。
まとめ
均質な自由物体の直感は、現場の部品では外れます。引張したベルトは熱で縮み、開く格子は引張で太くなり、エア筋は膨張で縮み、ボルトは予圧で変動を面に逃がします。共通しているのは、分子の取り得る配置、セルの幾何、予圧を設計変数にしていることです。カップリングのばねはサーボ一周へ、長さが変わる端は逆運動学へ続きます。
よくある質問
Q1. 机の上のゴムも、温めると縮むか
A. 引張した時に限ります。力をかけていない塊は、熱膨張の側が見えます。ベルトやカップリングのように、すでに伸ばして使っている部品で、熱が張力を上げます。
Q2. 開く格子は、材料の名前か
A. 構造の名前です。セルが開く形をしていれば、樹脂でも金属でも同じ向きの応答が出ます。均質な塊として「どの材料でも太くなる」わけではありません。
Q3. エア筋はサーボモータの代わりになるか
A. 代わりにはなりません。長さが変わるアクチュエータです。短い引きと力が要る仕事向きです。角度の軌道と位置の一周は、モータとエンコーダ側に残ります。
Q4. ボルトは強く締めるほど良いか
A. いいえ。接合面が開かない予圧と、ボルトが降伏しない上限の間です。締めすぎると、最初から塑性側へ入り、変動を受ける余裕が無くなります。
Q5. ショットピーニングも同じ話か
A. 同じ思想の別の仕事です。表面に圧縮を残し、使用時の引張振幅を抑えます。ボルト予圧は締結の軸力、ピーニングは表面の残留応力です。

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