制御盤の中にも、オフィスのラックにも、ケーブルが大量に繋がって通信を分配する装置がついています。それらは「スイッチ」や「ルータ」と呼ばれますが、ケーブルを流れてきたデータのひとまとまりを、箱の中でどう扱うかで分類されます。特に、工場の設備の通信を考える時、この差異を取り違えると、制御周期が乱れたり、オフィス側のブロードキャストがサーボ網に流れ込んだりして大変です。
この記事では、一般的な教科書の OSI 一覧ではなく、同じサブネットの中を MAC で捌く箱(スイッチ)とサブネットの境で IP を見て組み直す箱(ルータ)を、設備の配線の話として分けて解説していきます。産業用通信や社内ネットワークが遅くなる理由の根本原因になりえる話です。記事の中では、データのひとまとまりがスイッチを渡る様子をスイッチの節、ルータで組み直される様子をルータの節の図で見ていきます。
この記事の要点
| 章 | この節で解説すること |
|---|---|
| 見た目と仕事の違い | 箱の名前ではなく、見る宛先が MAC か IP かで分ける |
| スイッチの MAC 転送 | 同じサブネットの中で、MAC を見てポートへ出す。IP は触らない |
| ルータの IP 組み直し | サブネットの境で外側の宛先を剥がし、送り方を組み直す |
| スイッチとルータの取り違えで起こること | 届かない・遅れる・EtherCAT が止まる |
| VLAN と経路 | 同じ箱でもブロードキャストドメインを分けられる。別 VLAN へ届ける仕事はルータ(または L3) |
| スイッチとルータの早見表 | MAC / IP、ブロードキャスト、EtherCAT、社内 PC をどこに置くか |
見た目と仕事の違い
見た目が似ているので、箱のラベルだけでは仕事は分かりません。この節では、宛先の種類で分類します。
ひと口に「スイッチ」と呼ばれる装置にも、設定の少ない 8 ポートの箱から、回線が切れても通信を維持する構成(これをリング冗長と言います)を備えた産業用まで幅があります。名前が同じでも、中の仕事は同じとは限りません。
機器ごとに付いている宛先を MAC と言います。どの網の何番かを示す番号が IP です。同じ網とみなす範囲をサブネットと言い、その切れ目をスラッシュで書く書き方が CIDR です。192.168.10.0/24 の /24 がそれです。同じ切れ目を 255.255.255.0 のように書いた値がサブネットマスクです。切れ目の数え方は、設備 LAN の CIDRとCIDR の可視化で確認できます。自分の装置が今どの IP を持っているかは、IP 確認で見られます。
同じサブネットの中を MAC で渡す処理を L2、サブネットの境で IP を見る処理を L3 と言います。分類の基準は、その箱が宛先の MAC だけを見て送り出すのか、IP のネットワーク部まで見るのかです。
| 箱 | 見る宛先 | 届く範囲 |
|---|---|---|
| スイッチ | MAC | 同じサブネット |
| ルータ | IP のネットワーク部 | サブネットの境 |
| L3 スイッチ | MAC と IP | 1 筐体に L2 と L3 |
アドレスを自動で配る仕組みを DHCP、外側から見たアドレスを取り換える仕組みを NAT と言います。オフィスで「ルータ」と呼ばれる装置には、NAT と DHCP と無線が一体になった宅内機器もあれば、ラックの L3 スイッチもあります。この記事の本筋は、MAC で捌くか、IP で組み直すかです。NAT はルータの節の後半で触れます。
では、設備の配線ではどうなるかを見ます。工場の制御装置を PLC、遠隔に置く入出力機器をリモート I/O、操作画面を HMI と言います。同じ 192.168.10.0/24 の中で PLC とリモート I/O と HMI が話し合うだけなら、多くの場合は L2 のスイッチで足ります。オフィス PC の網(別サブネット)へログを上げる、インターネットへ出る、となると、境にルータが要ります。ルータが無いと、ケーブルが刺さっていても IP では届きません。
スイッチの MAC 転送
この節では、スイッチがデータのひとまとまりをどう扱うかを解説します。LAN ケーブルの中を流れるデータのひとまとまりを、専門用語では Ethernet フレームと呼びます。スイッチに入った Ethernet フレームは、原則として中の IP を書き換えません。宛先 MAC を知っていれば、そのポートだけに出します。
送り主の MAC と入ってきたポートの対応を覚える表を学習テーブルと言います。全員に届ける送り方がブロードキャストで、ブロードキャストが届く範囲がブロードキャストドメインです。相手の MAC を問い合わせるプロトコルを ARP と言います。宛先 MAC を知らなければ、スイッチはブロードキャストドメインの他ポートにも流します。同時に送り主の MAC を学習テーブルに覚え、次から余分な送りを減らします。ARP も、ブロードキャストドメインの全員に届きます。
| 宛先 MAC | スイッチの動き |
|---|---|
| 知っている | その 1 ポートだけに出す |
| 知らない | 入ってきたポート以外にも流す |
| ブロードキャスト | ブロードキャストドメインの全員に届く |
| 送り主 | 学習テーブルに覚える |
設備でここが効くのは、同じサブネットにいる機器同士はルータを経由せずに届く、という点です。PLC が周期的に入出力を読む処理をスキャンと言います。PLC のスキャン、HMI の画面更新、EtherNet/IP や PROFINET(どちらも産業用 Ethernet の規格です)のステーション間の通信は、この同じ L2 の上に乗ることが多いです。
下の図で、宛先 MAC を見て 1 ポートだけに出す様子を確認します。
図では、フレームが HMI 側のポートに乗っています。中の IP は触られていません。知らない宛先なら他ポートにも流す、という動きが出るのは、ブロードキャストのときです。
通信の順番を決める機能を優先制御、通信を別ポートへ複製する機能をミラーリングと言います。安価なオフィス用スイッチを制御盤にそのまま入れると、学習テーブルが小さかったり、優先制御が無かったりします。その結果、大きなブロードキャストやミラーリングの負荷で周期が揺れます。社内が遅いの話はオフィス側ですが、原因の型は同じで、ブロードキャストドメインが広すぎることです。
EtherCAT のスレーブは、店頭のスイッチとは別物です。フレームをいったん全部受け取ってから出す方式をストア&フォワード、通過しながら読み書きする方式を on the fly と言います。受信したフレームを全ポートへ流す機器がハブです。EtherCAT はストア&フォワードではなく on the fly で、ハブを挟むと成立しません。この落とし穴は産業用通信規格の EtherCAT 節に書いてあります。本記事の「スイッチ」は、通常の Ethernet スイッチの話です。
ルータの IP 組み直し
この節では、ルータがサブネットの境で何をするかを解説します。自網の外へ出すときの出口をデフォルトゲートウェイと言い、多くの場合はルータがその役です。パケットがルータを越えられる回数の上限を TTL と言います。宛先 IP が自分のつながっているサブネットの外なら、機器はまずデフォルトゲートウェイへ送ります。ルータは外側の宛先(MAC)を剥がし、TTL を 1 減らし、出口側の新しい MAC でデータのひとまとまりを作り直します。だからルータを越えると、MAC は変わり、IP は(NAT しなければ)残ります。
下の図で、外側の MAC を剥がして組み直す様子を確認します。
図では、出口側の新しい MAC でフレームが出ています。中の IP は残っています。NAT は、このあと別に触れます。
製造実行システムを MES と言います。設備では、この境が「制御 LAN」と「情報 LAN」の切れ目になることが多いです。サーボ周期の EtherCAT や、PLC 同士の短いサイクルは制御側に残し、MES やファイル共有はルータの向こうへ出します。ファイアウォールは、その境で「通してよいか」を見る箱です。ルータと兼用のことも、別筐体のこともあります。
NAT が入ると、外側から見たアドレスが変わります。ポート開放やリモートメンテの話は、スイッチの学習テーブルではなく、変換表の話になります。NAT そのものは、この記事では深入りしません。
設定機能の無いスイッチをアンマネージドスイッチと言います。
制御機器と事務 PC を、ルータ無しの 1 台のアンマネージドスイッチに全部挿す構成です。ARP も Windows の発見パケットも、PLC と同じブロードキャストドメインに入ります。一時は動いても、PC を足した週から「たまに遅れる」が始まります。切るならサブネットを分け、境にルータ(または L3)を置きます。
スイッチとルータの取り違えで起こること
冒頭で触れた取り違えの結果を、よくある 3 つに分けて見ます。
| 1 | ルータが要るのにスイッチだけにした。192.168.10.0/24 の PLC と 192.168.20.0/24 の工程 PC は、ケーブルが同じスイッチに刺さっていても、デフォルトゲートウェイが無ければ IP では届きません。ランプは点灯します。通信はしません。 |
|---|---|
| 2 | スイッチで足りるのにルータを挟んだ。同じサブネットのリモート I/O までルータ越えにすると、ARP と TTL と NAT の設定が増え、周期通信の遅延が見積もりにくくなります。現場の I/O は、まず L2 で届くかを見ます。 |
| 3 | EtherCAT の鎖に Ethernet スイッチを入れた。on the fly の通過が、ストア&フォワードの箱で止まります。見た目は同じ LAN でも、仕事が違います。 |
PLC の出力がリレーかトランジスタかは、この層の一つ下(盤内の電気)の話です。この記事で見ているのは、「その PLC が、どの箱を経由して相手に届くか」です。
VLAN と経路
この節では、1 台のスイッチの中でブロードキャストドメインを分ける方法を解説します。スイッチの節で見たとおり、同じ箱に刺さった機器は同じブロードキャストドメインに入ります。アンマネージドスイッチに制御機器と事務 PC を全部挿せば、オフィス側のブロードキャストがサーボ網に入ります。冒頭で触れた「大変」の実体は、この混線です。
設備では、ラックを増やさずに、制御と事務を 1 台のスイッチにまとめたいことがあります。箱は 1 台のまま、ブロードキャストドメインだけを分けたい、という要求です。設定変更ができるスイッチをマネージドスイッチと言い、その中でブロードキャストドメインを分ける機能を VLAN と言います。VLAN は、スイッチのポートをグループに分ける仕事です。ルータの仕事(サブネットの境で送り方を組み直す)ではありません。
では、具体例を見ます。8 ポートのマネージドスイッチを 1 台置きます。ポート 1〜4 を VLAN 10 にし、PLC と HMI を 192.168.10.0/24 でつなぎます。ポート 5〜8 を VLAN 20 にし、工程 PC を 192.168.20.0/24 でつなぎます。
| ポート | VLAN | つなぐもの | ブロードキャストの行き先 |
|---|---|---|---|
| 1〜4 | 10 | PLC / HMI | VLAN 10 の中だけ |
| 5〜8 | 20 | 工程 PC | VLAN 20 の中だけ |
VLAN 10 の中では、スイッチはこれまでどおり MAC を見てポートへ出します。IP は触りません。VLAN 20 の Windows の発見パケットは、VLAN 10 の PLC には届きません。同じ筐体でも、ブロードキャストは混ざりません。ここまでが VLAN の仕事です。
VLAN の番号とサブネットの番号は別物です。VLAN 10 はスイッチがブロードキャストドメインに付ける番号、192.168.10.0/24 は IP の切れ目です。番号を揃えることが多いですが、揃えただけではルータにはなりません。ポート 1 の PLC からポート 6 の工程 PC へログを上げたいなら、VLAN だけでは届かず、デフォルトゲートウェイ(ルータ、または L3 スイッチ)が要ります。取り違えの 1 と同じで、ケーブルが同じ箱でも、IP の網が違えば MAC では渡りません。
| 項目 | VLAN | ルータ(L3) |
|---|---|---|
| 何をするか | 1 台のスイッチの中でブロードキャストドメインを分ける | サブネットの境で送り方を組み直す |
| 見る宛先 | その VLAN の中の MAC | IP のネットワーク部 |
| 同じ箱に刺す | できる | 関係しない |
| 別グループへ届ける | しない | する |
| ブロードキャスト | その VLAN の中で止まる | 原則、越えない |
Ethernet フレームに VLAN の番号を付ける印をタグと言います。複数のスイッチに同じ VLAN を伸ばすとき、タグを付けて 1 本のケーブルで複数の VLAN を運ぶ使い方があり、これをトランクと言います。伸ばした先でも、違う VLAN には MAC では渡りません。タグは「どのブロードキャストドメインのフレームか」を運ぶ印であり、サブネットの境を越える経路ではありません。
「VLAN を切ったから安全」は半分だけ正しいです。オフィス側のブロードキャストがサーボ網に入らなくなる、という点は正しいです。ただ、分かれたあとにどの経路で MES へ出すか、ファイアウォールをどこに置くかは、VLAN では決まりません。アドレス設計は CIDR で先に紙に書いた方が、後からポートを差し替えるより安くつきます。
スイッチとルータの早見表
ここまでの分類を、表にまとめます。
| 項目 | スイッチ(L2) | ルータ(L3) |
|---|---|---|
| 主な見る宛先 | MAC | IP(ネットワーク部) |
| 届いたデータ | 中身の IP は触らない | 外側の宛先を剥がして組み直す |
| 同じサブネット | ここで完結することが多い | 通常は経由しない |
| 別サブネット | 届かない | 境になる |
| ブロードキャスト(ARP など) | 同じドメインに届く | 原則、越えない |
| 設備での典型 | 盤内・セル内の Ethernet | 制御 LAN と情報 LAN の境 |
| EtherCAT の鎖 | 市販スイッチは挟まない | 関係しない(別の通過の話) |
よくある質問
Q1. L3 スイッチはどちらに数えるか
A. ポート間を MAC だけで渡している間はスイッチです。VLAN インタフェースで IP を持ち、サブネット間をルーティングし始めたら、その機能はルータです。1 筐体に両方が入っている、と考えます。
Q2. 無線 AP はスイッチかルータか
A. 有線 LAN と同じブロードキャストドメインに載せる動作をブリッジと言います。ブリッジとして載せるならスイッチ側、宅内機器のように NAT してから外へ出すならルータ側です。現場のタブレットを制御 VLAN に直結するかは、ブロードキャストとセキュリティの両方を見て決めます。
Q3. まずは何を確認するか
A. 機器の IP とサブネットマスクが同じ網かどうか、そしてデフォルトゲートウェイは何か、です。ここが揃っていれば、まずは L2 で届くはずです。届かないときは、ケーブルのランプより先にサブネットの切れ目を見ます。
Q4. 同じスイッチに刺さっているのに届かないのはなぜか
A. ケーブルが同じ箱でも、IP の網が違えばスイッチだけでは届きません。VLAN が違っても同じです。192.168.10.0/24 の PLC と 192.168.20.0/24 の工程 PC は、デフォルトゲートウェイが無ければ IP では話しません。ランプは点灯します。通信はしません。
Q5. ルータを越えると IP は変わるか
A. NAT しなければ残ります。変わるのは外側の MAC と TTL です。スイッチは中の IP を触りません。外側から見たアドレスが変わるのは変換表の話で、学習テーブルの話ではありません。
まとめ
この記事で分けて解説したのは、次の三点です。スイッチは同じサブネットの中を MAC で捌く。ルータはサブネットの境で、データのひとまとまりの送り方を組み直す。VLAN は 1 台のスイッチの中でブロードキャストドメインを分けるだけで、別 VLAN へ届ける仕事はルータに残る。設備では、周期の短い制御を L2 に残し、事務や上位系は境の向こうへ出す、が基本です。箱の形が似ていても、ブロードキャストが止まるか、IP が組み直されるかで配線の意味が変わります。
次に確認するのは、その境のアドレスの切り方(サブネット)と、外から見た変換(NAT)です。切れ目の数え方は設備 LAN の CIDRにあります。通信規格そのものの選び方は、産業用通信の記事が先にあります。

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